第2章責任関係 その6 − 責任関係の知識レベル −

エプシロン「じゃあ今日は、図2.9から見てみようか」

「図の下半分、パーティと責任関係のところはいいよな。この図では責任関係に期間とそれから新しく作業がつながってるけれども。」
ミュー「うん、だいじょうぶ。わかる。なんとなく」
「そうか。じゃあ、問題は上半分のとこなんだが。」
「責任関係型は前と一緒だよね。責任関係の種類。パワータイプ」
「そう、責任関係型は責任関係のパワータイプだ。同じようにパーティ型もパーティのパワータイプを示している。」
「おんなじ。」
「ん?」
「おんなじ形。パーティと責任関係。パーティ型と責任関係型。」
「そうだな。若干、多重度が違うけれども。図に波線が引いて上と下にモデルが分けてあるだろ。上側は知識レベル、下側は操作レベルって分けられてるけど。」
「上の方はパワータイプが集まってるの?パワータイプの責任関係型とパワータイプのパーティ型」
「うん。例とそのオブジェクト図を見てみるか。上側の知識レベルではパワータイプつまり種類同士の関係をあらわしていることに注意して。」

例1 地域は部門に分割される。このことは、委任者が地域で責任者が部門であるような地域構造という責任関係型によって扱われる。


例2 患者の同意は、委任者が患者で責任者が医師という責任関係型として定義される。

「例の文章には知識レベルについての記述しかないんだけど、オブジェクト図の方には操作レベルのインスタンスも追加してみた。」
「んと、例1の下側の責任関係のインスタンスACM北米とACM北米公官システム部門とくっついてる。」
「下側、つまり操作レベルでは具体的なパーティのインスタンス同士の責任関係をあらわしてる。これは今までと一緒だろ。で、上側の知識レベルなんだが」
「うーん」
「こっちは、どういう種類のパーティとどういう種類のパーティが地域構造という種類の責任関係を取りうるかってことを示してるんだけど。んーと、分かりづらいよな。これは、例2の方が分かりやすい。」
「えーと。患者さんとお医者さんの関係?」
「そういうこと。下側の操作レベルは患者であるJohn SmithがMark Thursz医師に1996年2月12日に内視鏡検査を受けたってことを責任関係型のインスタンスを使ってあらわしているんだけど、それを患者と医師との間の患者の同意として一般化ししたのが知識レベル。」
「エプちゃん。図2.9の方だけど」
「ん?」
「制約って書かれたノートがついてるよね。これは?」
「えーと。ちゃんと説明すると長くなっちゃうんだけど。うん、知識レベルの方で委任者となってる患者が、操作レベルの方で委任者となってるJohn Smithの型つまり種類になってて、やっぱり同じように知識レベルでの責任者となってる診療科か医師かが、操作レベルでの責任者Mark Thurszの型、この場合は医師の方だけど、になってるってことを保証しているんだ。」
「んーと、やっぱり難しいや。エプちゃん」
「制約がなかったとするだろ。そうするとMark Thurszが患者になってJohn Smithが医師になっちゃってるオブジェクト図も書けちゃうんだ。」
「こまっちゃうねえ。」
「だろ。だからそういうことが起こらないように、パーティとパーティ型との関連を制限してやんないといけない。それがノートに書かれた制約になってる。」
「お医者さんはお医者さんに、患者さんは患者さんにってことだね。エプちゃん」
「(・・・?)」

閑話 − 糊オブジェクト、糊クラス −

組織構造や責任関係のインスタンスって、いかんともそのインスタンス名が付けづらいですよね。

この例だと「John SmithがACM社で働いていることをあらわす雇用関係:責任関係(or 雇用)」とでもなるのでしょうか。こうなるともうオブジェクト図全体をあらわした名前になってしまいます。

組織や人などのインスタンスはそれが単体で存在してところを容易に想像することができますが(つまりJohn Smith氏やACM社のこと)、組織構造や責任関係のインスタンスは、それ自体が独立して存在してるってところは想像しがたいですよね。責任関係は、ACM社とJohn Smith氏とを結びつけることで初めて意味をもったインスタンスとなりえるわけです。

こうした、他のオブジェクト同士の結びつき自体をオブジェクトとしてとらえたものを「糊」の意味で"グル―オブジェクト(glue object)"と、そのクラスを"グル―クラス(glue class)"と自分の中で勝手に呼んでます。その働きが素粒子分野でのグル―オン(gluon)を思い起こさせるとこもあるので。(ほんとはちゃんと名前が付いているのかもしれません)

この"グル―クラス"と似た概念として関連クラスがあります。

違いとしては、"グル―クラス"は特定のインスタンス間、たとえばJohn Smith氏とAMC社との間にいくつもの関連を持たせることができますが、関連クラスの方では1つの関連しか持たせることができないという点が挙げられます。

第2章責任関係 その5 − 責任関係 −

ミュー「責任関係、って難しい言葉だね。そゆの好きだよねエプちゃん。」
エプシロン「いや、別に俺の好き嫌いの問題じゃないだろ。」
「じゃあ、いきますかさっそく。エプちゃん。図2.8だよね」

「これ、図2.6に似てるだろ。組織構造をあらわしてたやつ」
「うん。おんなじかたち」
「だよな。じゃあ違うのはどこだ。ミュー」
「組織がパーティになってる。あと組織構造っていうのが責任関係になってるねエプちゃん。」
「ついでに、親と子が委任者と責任者にかわってるよな」
「うん」
「組織構造は組織と組織の間の親子関係を示してただろ。ACM社のボストン営業所とボストン2176型サービスチームとの関係とかさ。」
「ライン管理だったよね。」
「この図2.8はそれを、パーティとパーティとの間の関係、つまり人と人、人と組織、組織と組織との間の責任関係に適用したものになってるんだ。」
「責任関係って何?エプちゃん」
「うーん、管理、雇用、契約とかいろんな概念を責任関係としてとらえることができるんだけど、ここは例を示した方が早いな。」

例1 John SmithはAMC社で働いている。このことは責任関係の委任者をACM社、責任者パーティをJohn Smith、責任関係型を雇用としてモデル化される。


例2 John Smithはボストン2176型サービスチームの責任者である。このことは、管理者という責任関係型の責任関係において、John Smithがボストン2176型サービスチームの責任者であるというふうにモデル化される。


例3 Mark Thurszは王立外科医大のメンバである。このことは、専門家登録という責任関係型の責任関係においてMark Thurszが王立外科医大に責任があるという風にモデル化される。

例4 John Smithは、Mark Thurszが内視鏡検査を実施することに同意した。このことは患者同意という責任関係型の責任関係において、Mark ThurszがJohn Smithの責任者であるという風にモデル化される。


例5 セントメリー病院はパークサイド地区保健所と内視鏡検査を1996年から1997年にわたって実施する契約をした。このことは内視鏡検査サービスという責任会計型の責任関係において、セントメリー病院がパークサイドの責任者であるというふうにモデル化される。責任関係の期間は1996年1月1日から1996年12月31日までである。責任関係のサブタイプで、どのような手術まで含まれるかや契約期間内に何回実施されるかといった追加情報が与えられる。

「図がいっぱいだよ」
「パーティのインスタンス同士、例えばJohn SmithとACM社が、責任関係のインスタンスを介して結びつけられているだろ。」
「うん、わかるよ。それで、責任関係には委任者と責任者がいるんだね」
「そう。で、どういう種類の責任関係なのか、それが責任関係型のインスタンス、例1だと雇用との関連で示してあるわけだ。」
「わけだ。」
「つまり、責任関係型は責任関係の・・」
「パワータイプ、だね。エプちゃん。種類だもん」
「・・・そうだな。」

第2章責任関係 その4 − 続・組織構造 −

エプシロン「うん、うまいな。このクッキー」
ミュー「エプちゃんもう食べてる。今紅茶淹れるからちょっと待ってよ。」
「うん、じゃあ待ってる。」

・・・

「エプちゃん。」
「ん?」
「えっと、そのパワー・・なんとか」
「パワータイプ(powertype)な」
「うん、そうそう、パワータイプ。」
「パワータイプがどうした。」
「ってなんだったっけ?」
「あー、そうだな。車、あるよな。」
「うちには無いけど、エプちゃんちにはあるよね。それからトットさんとこにも。」
「そうそう。うちはセダンで、トットさんとこのはぼろっちい軽トラ。」
「ぼろくないよ。」
「まあ、それはいいから。で、車ってさ、いろんな種類に分けられるだろ。セダンだとかトラックだとか、バスだとかに。」
「うん。そっか、種類。」
「そう、車の種類、まあ車種とでもいうかな。この車種が車のパワータイプになるんだ。いいか、車種のインスタンスはセダンやトラックなんかの車の種類を表す。一方、車のインスタンストットさんのぼろ軽トラだとかうちの青いセダンだとか、具体的な車一台一台を表すんだ。」
「だからぼろくないと思うんだけど・・・」
「じゃあ、前に出てきた組織構造の例でクラス図を示してみよう。」


「エプちゃん。ライン管理や製品サポートが組織構造のサブタイプ?になってるけど?」
「組織構造のパワータイプである組織構造型のインスタンスは、組織構造の種類をあらわすんだっただろ?」
「うん、そっか、エプちゃん。種類だからサブタイプで表すことができちゃうんだ。」
「そう。で、汎化関連のとこに:組織構造型ってあるだろ。これは組織構造のサブタイプであるライン管理や製品サポートが、組織構造のパワータイプである組織構造型のインスタンスとなってることをあらわしているんだ。」
「うーん、良く見ないと見落としちゃうかも。」
「まあ、表記法の細かいことだから、あんまり気にしなくてもいいんじゃないかな。」
「うん。でも見落とさないようにこれからは気をつける。がんばる」
「そうか、律儀だなミューは。ついでだから、図2.7までいっちゃうか。」


「これは組織構造型にルールを配置したものになってる。」
「えっと、例えばライン管理になにかルールがつくの?」
「そう、ライン管理には、そのライン構造の組織構造に関するルールが配置されるんだ。
事業部、地域、部門、営業所の順で階層型の組織の構造になるとか、ね。」


「エプちゃん、図2.7には期間っていうのが組織構造についてるけど。」
「お、ミューにしては目ざといな。」
「エッヘン」
「その、期間ってのは、例えばボストン営業所とボストン2176型サービスチームとの間の親子関係が有効な期間を表していると思えばいい。」
「えっと?」
「仮にボストン2176型サービスチームが2012年3月に廃止されるとするだろ。そしたら期間を2012年3月までってしてやればいい。」



「ちょっと注意しないといけないのは、期間はそれぞれの組織構造のインスタンスに関連付けられていて、ルールの方は組織構造型のインスタンスに関連づけられてるってことだな。」
「ルールのインスタンスは、ライン管理って種類の組織構造について全般的に成り立つルールってことだね。一個一個の組織構造についてじゃなくて。」
「そゆこと。」
「エプちゃん。」
「ん?」
「紅茶。冷めちゃったね。」
「あ。」
「もいっかい淹れてくるね。」
「うん、頼むわ。ありがと」

第2章責任関係 その3 − 組織構造 −

エプシロン「さっそくだけど、図2.6から見てみようか。」

ミュー「この図には型を持った関連の使用ってタイトルがついてるね。」
「うん。」
「型を持った関連っていうのは、、」
「うん。前回の図2.5を見てみようか。あれは2つの階層構造が示されたよな。営業についてのと、製品サービスについてのと。」
「オブジェクト図だと、ボストン営業所とボストン2176型サービスチームが営業の親子関係で、2170型ファミリサービスセンタとボストン2176型サービスチームが製品サービスの親子関係だったよね。」
「そう、組織の間の親子関係にも、営業に関する関係だったり、製品サービスに関しての関係だったりといろいろあるわけだ。だから、組織の間の関係、つまり関連をオブジェクトのように扱ってやって、うん、これが図2.6の組織構造のインスタンスとなるんだけど。」
「ちょっとむずかしいよ。エプちゃん。」
「まあ、いいから聞けって。で、その関連の種類、つまり型を組織構造型のインスタンスで示してやるんだ。」
「だから、難しいんだってエプちゃん。」
「じゃあ、次の2つの例をオブジェクト図で表してみようか。」

例1 ボストン2176型大容量カプチーノメーカのサービスチームは、ボストン営業所に報告をあげる。このことは、親がボストン営業所で、子がボストン2176型サービスチームであるという組織構造でモデル化される。この時の組織構造型はライン管理である。

例2 ボストン2176型大容量カプチーノメーカのサービスチームは、製品サポート組織である2170型ファミリサービスセンタにも報告を上げる。このことは、親が2170型ファミリサービスセンタで、子がボストン2176型サービスチームであるという別の組織構造でモデル化される。このときの組織構造型は製品サポートである。


「どうだ、例に挙がってる以外のものもあるけど。ミュー?」
マサチューセッツ営業部門とボストン営業所、それからボストン2176型サービスチームの縦のラインにある組織構造のインスタンスが、それぞれライン管理につながってるね。」
「そうそう、2170型ファミリサービスセンタとボストン2176型サービスチーム、シアトル2179型サービスチームとの関係、つまり組織構造のインスタンスは組織構造型の製品サポートにつながってるだろ。」
「うんうん」
「つまり、組織構造型のインスタンスであるライン管理や製品サポートは、それぞれ組織間の組織構造の種類を表しているんだ。で、」
「で?」
「こういう、何かの"種類"をインスタンスとして持つクラスをパワータイプっていうんだけど、
うん、この場合は組織構造型が組織構造のパワータイプとなっている。」
「パワータイプ」
「うん」
「パワータイプ。種類。パワータイプ。」
「うん。そうだな、ちょっと長くなったら今回はここまでにするか。」
「うん、そうだね。ミューもちょっと疲れちゃった。うちにクッキーあるから一緒に食べよ。」
「よしっ」

閑話休題 − エプシロンとミュー −

エプシロン、ミューの掛け合いは

ここにないもの―新哲学対話

ここにないもの―新哲学対話

が元です。お勧めです。

ここでは、私が本を読み物事を考えるときの脳内会議を、エプちゃんとミューの会話という形を借りて表現させてもらってます。

ところで閑話休題って「話を本筋にもどすこと」であって、使い方間違えてますね。恥ずかしい。。。

第2章責任関係 その2 − 組織階層 −

ミュー「コーヒーは苦くて飲めないよ」
エプシロン「何だいきなり。アロマコーヒーメーカ(ACM)社の組織構造が例に挙がっているからか?まあ、俺もブラックは苦手だな。」
「ミューはミルクとお砂糖いっぱい入れたカフェオレなら飲めるよ。でもね、夜寝れなくなっちゃう。お布団入っても頭の中でグルグルといろんなことがね・・・」
「わかったから。もういいから。じゃあ、図2.3だ。これは事業部が地域に分かれ、地域が部門に分かれ、部門が営業所に分かれてるのを表現しているようだな。」

「地域っていうのは?関東とか北陸とか東北とか?」
ACM社は多国籍企業ってことだからな。もっと大きな範囲、例えば北米だとかヨーロッパだとか東アジアだとかが妥当だろうな。」
「ふーん」
「で、事業部、地域、部門、営業所を組織に汎化したのが図2.4」

「組織から出て組織に戻ってる関連、ほら、親、子ってのがあるだろ。それが組織構造が階層構造であることを表している。階層構造ってわかるか、ミュー」
「うん、わかるよ。木構造っていうやつでしょ。」
「(こいつ・・・)、で、事業部、地域、部門、営業所の順で階層になっているってのが、それぞれについた制約によって記されているんだ。」
「だけど、なんだか面倒くさいね。図2.3の方がすっきりしてない?」
「えーと、そうだな。組織構造が変わった場合、例えば地域を廃止して部門を事業部の直下に置くようになった場合は、図2.3ではモデルの構造を変更しないといけない。だけど図2.4だと制約の部分を書き換えてやればいいだろ。」
「部門についてる制約を「親は事業部」って書き換えるの?」
「そうだ、ミュー。組織構造が変更されたときにより柔軟に対応できることが必要なんだ」
「んー」

「じゃあ、図2.5にいくな。これは一つの組織が二つの組織階層に組み込まれている状況を表している。」

「ん?よくわかんないよ、エプちゃん」
「製品サービスについての組織階層と、営業についての組織階層があるってことだ。これはオブジェクト図をかいた方が分かりやすいだろう。」